日本の弾劾制度
裁判官は憲法や法律に基づいて公正な裁判を行い、国民の権利を守るという大変重い責任を負っています。この責任を果たすためには、裁判官は国会や内閣などから圧力を受けたり、特定の政治的、社会的な勢力などから影響を受けたりすることがあってはなりません。日本国憲法も、すべて裁判官は、その良心に従い独立してその職権を行い、憲法及び法律にのみ拘束される(憲法76条3項)と定めています。
実際に裁判官が独立した公正な裁判を行うためには、国会や内閣などによってその地位をおびやかされないようにする必要があります。そこで、日本国憲法は行政機関による裁判官の処分を禁止し、在任中報酬を減額されないことを定めるなど、その身分を厚く保障して裁判官が自律した立場で公正な裁判ができるよう配慮しています(憲法78、79、80条)。
しかし、裁判官であっても、国民の信頼を裏切るような行為を犯した場合には辞めさせることができなくてはなりません。そこで、日本国憲法において、理念として、公務員を罷免することが国民の権利であると宣言されていること(憲法15条1項)や、身分保障が強く要請される裁判官をいたずらに不安定な地位におくことは望ましくないことなども考慮して、罷免事由等が限定された現在の裁判官弾劾制度が採用されたのです。
すべての裁判官は、心身の故障のため職務を果たすことができなくなったと司法裁判所の裁判により認められたときを除き、弾劾裁判所の罷免の判決を受けない限り罷免されることはありません。ただし、最高裁判所の裁判官については、国民が直接その適格性を審査する国民審査制度があり、国民の投票により、その多数が罷免を可としたときも罷免されます。
憲法15条1項
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公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
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憲法76条3項
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すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。
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憲法78条
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裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行ふことはできない。
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憲法79条
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最高裁判所は、その長たる裁判官及び法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は、内閣でこれを任命する。
最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し、その後十年を経過した後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際更に審査に付し、その後も同様とする。
前項の場合において、投票者の多数が裁判官の罷免を可とするときは、その裁判官は、罷免される。
審査に関する事項は、法律でこれを定める。
最高裁判所の裁判官は、法律の定める年齢に達した時に退官する。
最高裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。
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憲法80条
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下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によつて、内閣でこれを任命する。その裁判官は、任期を十年とし、再任されることができる。但し、法律の定める年齢に達した時には退官する。
下級裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。
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ところで、我が国の弾劾制度のモデルとなったアメリカ合衆国の制度では、権力分立の見地から上院議会が弾劾裁判を行うものとされています。しかし、現代の議会は、議員の数も多く、法律や予算を始め多くの案件を処理する必要があることから、必ずしも裁判を行うのに適しているとはいえません。そこで、我が国では裁判官の弾劾裁判を行うために、国民の代表である国会議員の中から選ばれた裁判員によって組織される特別の裁判所を設けています。それが昭和22年に誕生した弾劾裁判所です。
弾劾裁判所で裁判を行う裁判員は、衆議院と参議院のそれぞれの議員の中から7名ずつ選ばれた合計14名の国会議員です。裁判員の任期は、原則としてそれぞれの議員の任期の終了までとなっています。また、裁判長は、衆議院選出の裁判員と参議院選出の裁判員から交互に選ばれ、その任期は原則として1年とされています。
裁判員はすべて国会議員ですが、政党や会派から独立して、国民の代表として、それぞれの良心に従って裁判員の職務を行います。
[国民、国家機関及び弾劾裁判所の関係]
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