弾劾裁判所の歴史 / 平成元年以降

1 概観
2 罷免訴追事件
3 裁判官弾劾関係法規の改正
4 裁判官弾劾制度創設50周年記念行事

1 概観
平成元年以降には、罷免訴追事件が2件あり、弾劾裁判所は、いずれも罷免の判決を宣告しました。
法制面では、弾劾法の改正が2回、弾劾規則の改正が3回、裁判官弾劾裁判所傍聴規則(以下 「傍聴規則」といいます。)の改正が2回行なわれました。
2 罷免訴追事件
1) 東京地方裁判所判事(東京高等裁判所判事職務代行)に対する事件
ア 訴追されるまでの経過
東京家庭裁判所に送致された少女の供述をきっかけとして、警視庁蒲田署は、児童買春( かいしゅん)、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「児童買春処罰法 」といいます。)違反の容疑に関する捜査を行なっていましたが、平成13年5月19日、犯行に利用された携帯電話への呼び出しに応じて川崎駅に現れた東京地方裁判所判事(東京高等裁判所判事職務代行)を逮捕しました。同署が捜査を行なった結果、同判事が、複数の少女と買春行為 を繰り返していた事実が発覚しました。
東京地方検察庁は、3人の少女に対する児童買春処罰法 違反の容疑で、同判事を東京地方裁判所に起訴しました。同判事は、逮捕時には抵抗していましたが、刑事裁判においては起訴事実を全面的に認めました。同裁判所は、7月23日の第1回公判で即日結審し、8月27日に、同判事に対し、懲役2年、執行猶予5年の有罪判決を宣告し、この判決は9月11日に確定しました。
一方、同判事の逮捕を受けて、訴追委員会に対し、複数の国民から同判事の訴追請求があったほか、最高裁判所も、5月28日、訴追請求をしました。その後、訴追委員会は、調査を行なった結果、同判事を訴追することを決定し、8月9日、弾劾裁判所に訴追状を提出しました。
訴追事由の要旨は、次のとおりです。
訴追の事由
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現金の供与を約束して、ホテルなどで3人の少女に児童買春 をした。
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イ 審理経過
弾劾裁判所は、8月22日、同判事の職務停止を決定し、第1回公判期日を9月20日と指定しました。
第1回公判では、冒頭手続(弾劾裁判の最初に行なわれる人定質問、訴追状朗読、黙秘権等の告知、訴追事件に対する陳述の手続 )、訴追委員会と弁護人が請求した証拠調べ手続などが行なわれました。同判事は、訴追事実を全面的に認め、罷免されることも当然であると述べ、弁護人も罷免について争う姿勢を示しませんでした。その後の弾劾裁判の審理においては、同判事の刑事裁判での証拠資料謄本が証拠として提出され、これが証拠として採用されました。証人尋問は行なわれませんでした。
第2回公判は、当初、10月10日に予定されていましたが、9月11日にアメリカ合衆国で起こった同時多発テロの影響で、第2回公判期日前日の10月9日になって、第2回公判と同時刻に衆議院本会議が開会されることになりました。そこで、第2回公判期日は取り消され、改めて10月31日と指定されました。
第2回公判では、被訴追者本人に対する訊問が行なわれ、訴追委員会、弁護人、被訴追者の意見陳述を経て、弁論は終結しました。その後、11月28日の第3回公判において、被訴追者に対し、罷免の判決が宣告されました。
判決理由の要旨は、次のとおりです。
弾劾裁判所の判断
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訴追事由の事実を認定し、在任中に禁錮以上の刑が確定しても、弾劾裁判を経るまでは当然には失官しないとした上で、国民が裁判官に期待する良心が一片でもあれば到底行なえないような行為を重ね、国民の司法に対する信頼は限りなく揺らいだ。失われた司法の信頼を回復するには、弾劾により罷免するほかなく、弾劾法2条2号に該当する。
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ウ 憲法上の論点についての判断
この事件では、罷免するか否かの判断のほかに、憲法上の論点が含まれていました。
同判事は、弾劾裁判が係属した後の8月27日に東京地方裁判所により懲役2年執行猶予5年の有罪判決を受け、同判決は弾劾裁判の第1回公判前の9月11日に確定しました。
裁判所法46条には、裁判官の任命欠格事由として、禁錮以上の刑に処せられた者は、裁判官に任命することができないと規定されていることから、在任中の裁判官が禁錮以上の刑に処せられた場合、弾劾裁判を経ることなく当然に失官するのか( 当然失官説、 弾劾裁判不要説 )、あるいは、このような場合でも、弾劾裁判を経なければ失官しないのか( 非当然失官説、 弾劾裁判必要説 )が問題とされました。
弾劾裁判所は、禁錮以上の刑を受けた裁判官も、弾劾裁判を受けなければ失官せず、裁判所の判断が必要であるとして、裁判手続を進行させました。
主な理由は、次のとおりです。
理由の要旨
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a 裁判官には当然失職の規定(国家公務員法76条)の適用がなく、この規定に相当する規定もないこと、
b 裁判官の身分保障の見地から、裁判官弾劾制度が設けられているから、裁判官の失官は弾劾によるべきであること、
c 当然に失官すると考えると、執行猶予付き有罪判決を受けた裁判官は、執行猶予期間の満了によって、資格回復裁判を受けずに資格を回復することになるが、有罪判決を受けないで弾劾裁判を受けた裁判官は、改めて弾劾裁判所の資格回復裁判を受けなければ資格を回復できず、不均衡であること。
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2) 宇都宮地方裁判所判事兼宇都宮簡易裁判所判事に対する事件
ア 訴追されるまでの経過
宇都宮地方裁判所判事兼宇都宮簡易裁判所判事は、裁判所職員の女性に対し、その行動を監視していると思わせたり、名誉や性的羞恥心を害したりするような内容のメールを繰り返し送信したとして、平成20年5月21日、ストーカー規制法違反の容疑で逮捕され、6月10日、起訴されました。同判事に対する刑事裁判は、7月25日、甲府地方裁判所で第1回公判が行われ、同判事は起訴事実を認めました。同裁判所は、即日結審し、8月8日、同判事に対し、懲役6月、執行猶予2年の有罪判決を宣告し、この判決は同月12日、確定しました。
一方で、最高裁判所は、6月16日、訴追委員会に対し、同判事の訴追請求をしました。訴追委員会は、同判事から事情聴取するなどの調査をした結果、同判事を訴追することを決定し、9月9日、弾劾裁判所に訴追状を提出しました。
訴追事由の要旨は、次のとおりです。
訴追の事由
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裁判所職員の女性に対し、その行動を監視していると思わせたり、名誉や性的羞恥心を害したりするような内容のメールを繰り返し送信し、ストーカー行為をした。
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イ 審理経過
弾劾裁判所は、9月29日、同判事の職務停止を決定した後、数回にわたり訴追委員会や弁護人らと打合せを行い、11月11日、第1回公判期日を12月3日と指定しました。
第1回公判において、同判事側は、訴追の事由を全面的に認め、罷免されることも争いませんでした。そこで、弾劾裁判所は、訴追委員会及び弁護人が請求した証拠の取調べ、同判事本人の訊問、訴追委員会・弁護人・同判事本人の意見陳述等を行い、この日で審理を終えて結審しました。
第2回公判は、12月24日に開かれ、弾劾裁判所は、同判事に対し、罷免の判決を宣告しました。
判決理由の要旨は、次のとおりです。
弾劾裁判所の判断
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訴追事由の事実を認定し、平成13年(訴)第1号事件判決と同様、在任中に禁錮以上の刑が確定しても、弾劾裁判を経るまでは失官しないとした上で、被害女性の人権を踏みにじる卑劣な行為で、裁判官としての良心や品位はみじんも感じられず、国民の信頼に対する背反以外の何物でもなく、国民の司法に対する信頼は大きく揺らいだなどとして、弾劾法2条2号に該当すると判断した。
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3 裁判官弾劾関係法規の改正
この年代における関係法規の改正のうち、主なものは次のとおりです。
1) 弾劾法の改正
平成3年の改正(同年法律第87号)
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平成3年9月19日、証人等に対する罰則が強化され、過料の上限が1万円から10万円に引き上げられました(44条)。
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2) 弾劾規則の改正
平成9年の改正
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平成9年10月22日、民事訴訟法の全面改正(平成8年法律第109号)にともない、弾劾規則が準用している旧民事訴訟法の条文を新民事訴訟法の相当条文に置き換えるとの改正を行ないました(49条4項)。
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平成13年の改正
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平成13年8月9日、刑事訴訟規則の相当規定に合わせて、判決書を除いた裁判員や弾劾裁判所事務局参事が作成する文書 並びに事件関係人(訴追委員等の公務員、弁護人等 )が作成する文書について、署名押印(自ら手書きでその氏名を記し、印鑑を押すこと )に代えて記名押印(署名以外の方法でその氏名を記し、印鑑を押すこと )することができるように改められました(47条の2の追加、48条1項の一部改正)。
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3) 傍聴規則の改正
平成13年の改正
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ア 平成13年8月9日、事務局職員が傍聴人の被服や所持品の検査等をできるよう改められました(1条2号)。
イ 同規則では、傍聴人が裁判長の許可を受けずに速記することが禁じられていましたが、同日、メモを取ることの重要性等から、この速記の制限が廃止されました(3条4号)。
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4 裁判官弾劾制度創設50周年記念行事
裁判官弾劾制度は、平成9年11月20日に50周年を迎えました。そこで、弾劾裁判所と訴追委員会が合同で憲政記念館講堂において記念式典を行ないました。式典には衆参両院議長、内閣総理大臣(代理)、最高裁判所長官の三権の長、日本弁護士連合会会長のほか、関係者多数が出席しました。
記念出版物として「裁判官弾劾制度の五十年」を刊行し、7月22日には、学者、法曹関係者、報道関係者らによる記念座談会が開催されました。

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